東大で芸術作品が見られる! レディメイド芸術を見に、出かけよう
コンセプトアートの始祖として20世紀美術に大きな影響を与えたマルセル・デュシャン。
彼の代表作のひとつは、実は日本に常設展示されていて気軽に見に行くことができます。
コンセプトアートの始祖として20世紀美術に大きな影響を与えたマルセル・デュシャン。
彼の代表作のひとつは、実は日本に常設展示されていて気軽に見に行くことができます。
あの東京大学で芸術作品が見られる!
デュシャンの「彼女の独身者たちによって裸にされた花嫁、さえも」は、実は世界に4つあります。
そしてその4つの作品のうちひとつ「東京バージョン」は、実は意外な場所にあるのです。東京大学駒場キャンパスの一画に建つ古い建物、駒場博物館。
あの東京大学の施設に、「大ガラス」が展示されているのです。
謎だらけなのに魅力的な代表作
「彼女の独身者たちによって裸にされた花嫁、さえも」は、デュシャンが8年に渡り作り続け、未完のまま残されたにも関わらず、代表作と言われている作品です。二枚の大きなガラス板の間に金属や糸などの素材を使ったオブジェが挟まれていて、「大ガラス」という通称で呼ばれています。
一見すると、何だかわからない作品、に見えるかもしれません。が、間近で見てみると細部に不思議な魅惑があって、いつまでも見ていられます。
花嫁と独身者のせつない関係
デュシャンによれば、この作品は目で見るだけではなく、「グリーンボックス」と呼ばれる膨大なコンセプトメモを読んだうえで見るべきコンセプト・アートだといいます。
そのメモによれば、間仕切りで上下に分けられたガラスは、上部分が「花嫁の領域」、下部分が「独身者の機械」。
「独身者の機械」に描かれているのは9体の制服を着た独身者たち、チョコレート粉砕機、水車、そして動く漏斗。いずれもぐるぐる回転し絶え間なく動きながら、間仕切りで仕切られた花嫁のもとへたどり着くことはできません。
そして上部の横たわる花嫁は独身者の生み出すエネルギーを受けて、やわやわと揺らいで花開こうとしています。が、花嫁と独身者が出会うことは遂にありません。これは、愛の不毛と孤独を描いた作品なのです。
変わり者でイタズラ好きだったデュシャン
デュシャンはとても変わり者で、そしてイタズラ好きな人でした。
たとえば、モナリザにヒゲを描き加えた作品「L.H.O.O.Q.」。この題名は「彼女のお尻は熱い」というジョークの略語なのです。彼は1923年後には全く制作を行わなくなり引退状態になり、45年間沈黙したまま死去するのですが、死後、実は「遺作」と呼ばれる作品を作っていたことが明らかになり、世界に衝撃を与えました。
その遺作はどんなものかというと、なんと、覗き穴でした。木の扉に空いた小さな穴から覗くと、野原に横たわる女性の裸体が見える、という人を喰ったもので、45年の沈黙の最後に作ったのがこれか、と思うと、やっぱり本質的にイタズラ好きでありバカなことが大好きなのだなと思わずにはおれません。
ダダイストの渾身の皮肉、レディメイド
さて、デュシャンとはどんな芸術家だったのか、あらためて見てみましょう。
デュシャンは1887年生まれ。画家として出発しましたが、ダダイズムという、ヨーロッパの既存芸術を全否定する運動に接近するにつれ、絵を描くのをほとんどやめてしまいます。そして、1917年に、ある作品を発表しセンセーションを巻き起こしました。それは「泉」という名前がついたオブジェでしたが、なんと、白い便器を店から買ってきて、サインを入れただけのものでした。「芸術とは要するに社会的なラベルじゃないか、芸術と名がつけば芸術、それだけのことにすぎないじゃないか」と、言葉ではなく作品で語ってみせたのです。レディメイド、と呼ばれるデュシャンならではの方法でした。
コンセプト・アートの生みの親
ヨーロッパ人が守ってきた芸術観を、たった一個の便器で強烈に皮肉り否定してみせたデュシャンの鮮やかな手口は、後世に大きな影響を与えました。極端にいえば、「泉」の出現以降、芸術は「なんでもあり」になっていったのです。既存の価値観を揺さぶるコンセプトがあれば、絵を描かなくても物を作らなくても芸術は作れる…。
コンセプト・アートといわれるそんな考え方が、美術界に少しずつ広がってゆき、現代美術の基礎になっていったのでした。そのことがよかったのか悪かったのか、デュシャンはそういう流れになるのを望んでいたのかいなかったのか。そのあたりはいろいろ議論がありますが、20世紀美術の大きな源流のひとつとして、マルセル・デュシャンの名は語り継がれることになったのです。
伝説のアーティストの未完の傑作。気が向いたかたはぜひ、駒場博物館を訪ねて間近で見てみてください。駒場キャンパスは緑豊かな環境ですので、ついでに構内を散歩してみるのもおすすめです。
東京大学 駒場博物館
住所: 〒153-8902 東京都目黒区駒場3-8-1
電話: 03-5454-6139
開館時間: 10時-18時 (入館は17時半まで)
休館日: 火曜日
入館料: 無料
公式サイト: http://museum.c.u-tokyo.ac.jp/
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