49712 Views

見れば見るほど謎だらけ… 「ラス・メニーナス」の不思議まとめ

17世紀のスペイン王室に仕えた宮廷画家、ディエゴ・ベラスケスの傑作、「ラス・メニーナス」。
西洋絵画の最高傑作のひとつ、と言われながら、謎の多い絵としても知られてきました。
「ラス・メニーナス」の不思議を、まとめました。

17世紀のスペイン王室に仕えた宮廷画家、ディエゴ・ベラスケスの傑作「ラス・メニーナス」
西洋絵画の最高傑作のひとつ、と言われながら、謎の多い絵としても知られてきました。

ベラスケス「ラス・メニーナス」、どんな絵なのか?

まずは「ラス・メニーナス」の基礎知識から。
この絵に描かれているのは、スペイン王フェリペ4世の宮廷に生きた人たち。その中央にいるのが、王女マルガリータです。両側に、マルガリータに仕える女官たち。その右側に、道化師として仕えていた小人たちと犬。その後ろにぼんやりと僧侶たち。さらに後ろに、王女を案内してきたのだろう役人。左側に筆を持って立っているのは、画家ベラスケス自身です。研究者によって、全ての人物が実在した人物だと突き止められていて、名前も全員わかっています。そういう意味では、王女を中心とした集団肖像画としては、全く謎がない絵なのです。いったいこの絵のどこに、謎が秘められているのでしょうか?

「ラス・メニーナス」の絵に秘められた、数々の謎

一見すると、この絵は宮廷の日常を描いた穏やかな絵。この絵が秘める謎を、いくつか挙げてみましょう。
この絵の主役は誰なのか、という謎。
絵の中の画家が描いているのは何なのか、という謎。
奥の鏡に映っている二人の男女は誰なのか、という謎。
なぜ、こんなに高い天井がそのまま描かれているのか、という謎。
ひとつひとつ、取り上げてみましょう。

「ラス・メニーナス」の主役はいったい誰?

ディエゴ・ベラスケス『ラス・メニーナス』1656年


ラス・メニーナスとは、日本語でいうと女官たち、という意味。しかしこの題名は、だいぶ後になってからつけられたものだとわかっています。
画面構成上からは、どう見ても、主役はマルガリータ王女。
画面中央にいて、女官たちも彼女に向かってサービスし、画家も彼女を描くために立っています。
……あれ?よく見ると、おかしくありませんか?
画家はこの位置からでは、王女の背中しか描けません。
この絵が本当に王女の絵ならば、画家が王女を描いていない、というのはおかしな話です。

奥の鏡に映っているのは誰なのか?

王女の左上、部屋の奥の鏡に小さく映っている二人の男女。それが、この絵の主役は誰なのか、を解明するヒントです。
……鏡は、この絵の光景を、ちょうど視点の逆側から映しています。ということは、この鏡に映っているのは、この絵に描かれた光景を「見ている人」なのです!そして絵の中の画家は、「見ている人」を描こうとしているのではないでしょうか。

そう考えながらこの絵を見ると、どこかモヤモヤしていたものがぴたっ!とはまるのが感じられます。この絵の光景を見ていて、画家によって描かれようとしている人こそ、この絵の「描かれていない主役」。
それは奥の鏡に映っている二人、マルガリータ王女の両親フェリペ4世夫妻なのです。

なぜ、天井がこんなに高く描かれているのか?

この絵の真の主役は、絵の光景を「見ている人」、つまり国王夫妻でした。
そう考えると、マルガリータ王女がなぜ眼の前にいるのかも理解できます。王女はモデルをしている両親の慰めのため、部屋を訪れているわけです。また、この絵が天井をこんなに高く描いている理由も自然に理解できます。
この光景を「見ている人」が、肖像画を描かれている最中だからです。
胸を張ってやや上を見ているので、天井が目に入るというわけです。なんという構成の妙でしょう。
描かれていない人が絵の主役、というこの考え方の新しさと、緻密な計算。ラス・メニーナスが西洋絵画の至宝と言われる理由はそこにあります。

300年以上謎解きされて、なお残るラス・メニーナスの謎

ラス・メニーナスの謎はこんなふうに解き明かされてきましたが、実は、この解き方に異論を唱える人もいます。
遠近法を緻密に計算すると、「奥の鏡に映っているのは国王夫妻ではない」というのです。
映っているのは、絵の中のベラスケスが描いている途中の「絵」なのだ、と。
では、この絵の主役は国王夫妻ですらなく、絵の中の画家が描いている「絵の中の絵」なのか!?
こんなふうに、いまも解けきれない謎を抱え、見る人を合わせ鏡の迷宮に招くような名画。それが、ラス・メニーナスなのです。

最新まとめランキング

通算まとめランキング

キュレーター