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ブリューゲル展に行く前に…、5分でわかる作品解説「大きな魚は小さな魚を食う」

東京都美術館で行われる待望の展覧会、ブリューゲル「バベルの塔」展。
中でも注目を集めているのは、不思議な版画「大きな魚は小さな魚を食う」。
この絵のタイトルの意味は? みどころは?キュレーターが、5分でわかるように解説します。

傑作「バベルの塔」を描いたネーデルランド絵画の巨匠ピーテル ブリューゲル(父)。
版画家として活躍した初期の作品に、「大きな魚は小さな魚を食う」という傑作があります。
これは「強い権力を持ったものは、弱いものを支配し、破壊することができる」ということわざを表しています。
当時のネーデルランドは一般の文化が向上し、ことわざ集が大衆の人気を集めていました。

巨大な魚の口からは、たくさんの小さな魚があふれ出し、その小さな魚の口からは更に小さな魚がそれぞれ飛び出しています。
ことわざどおり、大きな魚が順に小さな魚を食べる弱肉強食の様子を描いています。

「大きな魚は小さな魚を食う」が本当に言いたいこととは?

『大きな魚は小さな魚を食う』ピーテル・ブリューゲル1世、
彫版:ピーテル・ファン・デル・ヘイデン
 ©Museum BVB, Rotterdam, the Netherlands


ところが、強いはずの巨大な魚は陸に揚げられ、鎧兜の人間にお腹をざっくり切られています。また、梯子に登った人間も、持っている三叉で刺そうとしています。
このことから、ことわざ以外の寓意が読み取れます。

魚をたくさん食べすぎた巨大な魚が、小さい人間にお腹を切られているのは、「権力を振り回しすぎると最後には立場が逆転する」という寓話です。
また、「いくら大きくても知恵があるものには敵わない」という意味にも解釈できます。

不思議なモチーフが満載
この絵をよく見ると、大きなえらを翼のように空を飛ぶ魚や、魚をくわえて歩いてる足のある魚など奇想天外なモチーフが見つかります。

また、小舟の近くに、ラテン語で「ほら、ご覧」を意味する「ECCE」とあります。父親が子どもに教えているようですが、その隣では、魚のお腹から何かを取り出している人がいます。魚をかついで木に登る人間や、巨大な魚の近くで我関せずと釣りをする人間も描かれています。これらすべてに、寓意が込めていると言われます。

一見、幻想を描いたようですが、遠くの背景にはきちんと都市が描かれ、幻想と現実が入り混じった魅力的な世界を造り出しています。

版画に書かれた「ヒエロニムス ボス」の謎を解く

この版画には「ヒロエニムス ボスの構想による」と書かれています。
ヒエロニムス ボスとは、15世紀に、空想上の動物を用いたブラックユーモアの寓意を描き「地獄と怪物の巨匠」と呼ばれた画家。
当時、死後40年以上経っても人気があるボスの名声にあやかって、あえて版元が書き添えたのです。

実際、ブリューゲルはボスの好んだ空飛ぶ魚や歩く魚を描き、「第2のボス」と呼ばれるように人気を獲得しました。

ブリューゲルが最後に残した意外な遺言

『ピーテル・ブリューゲル1世の肖像(部分)』ヨハネス・ウィーリクス ©Museum BVB, Rotterdam, the Netherlands


ブリューゲルは、現在のベルギー、アントワープ市の画家組合に登録した記録により1530年ごろの生まれだと推測されています。当時は、カトリック教であるスペイン王家の支配下にあり、プロテスタントへの迫害が行われた宗教改革の真最中でした。

ルネッサンス文化のイタリアを旅し、人文主義者と交流していた文化人ブリューゲルは、当時の絶対王政に対する批判を、風刺画によって表現したとも言われます。

ブリューゲルは、妻に「風刺の過ぎる作品を焼き捨てるように」と言い残して、わずか約40歳で短い生涯を終えました。その後2人の息子たちも画家として成功し、ブリューゲル一族は西洋絵画史に重要な足跡を残しました。

ブリューゲル「バベルの塔」展の公式サイト http://babel2017.jp

ボイアンス美術館所蔵 ブリューゲル「バベルの塔」展
  16世紀ネーデルランドの至宝―ボスを超えてー

東京会場
場所:東京都美術館 企画展示室
日程:2017年4月18日(火)〜7月2日(日)
開館時間:9時30分〜17時30分 金曜日は20時まで(入室は閉室の30分前まで)
休館日:月曜日(ただし5月1日は閉室)

大阪会場
場所:国立国際美術館
日程:2017年7月18日(火)〜10月15日(日)
開館時間:10時00分〜17時00分 金曜日は19時まで(入室は閉室の30分前まで)
休館日:月曜日(ただし9月18日、10月9日は開館)

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