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わがままナポレオンに振り回された、作家が苦悩した肖像画に隠された真実

ジャックルイ=ルイ・ダヴィット(以下ダヴィッド)の「ベルナール峠からアルプスを越えるボナパルト」。
この肖像画が果たした歴史的役割は非常に大きいですが、「できれば断りたい仕事だった…」のかもしれません。
作者ダヴィッドの苦悩と、驚くべき真実をご紹介します。

ジャック=ルイ・ダヴィッド『ベルナール峠からアルプスを越えるボナパルト』


ジャックルイ=ルイ・ダヴィット(以下ダヴィッド)の「ベルナール峠からアルプスを越えるボナパルト」。
あまりにも有名なナポレオンの肖像画、この絵を一度は見たことがある方も多いでしょう。
この肖像画が果たした歴史的役割は非常に大きく、人々はナポレオンの勇ましさに「英雄」というイメージ像を照らし合わせました。
しかし、この肖像画には作者ダヴィッドの苦悩と、驚くべき真実が隠されていたのです。

ナポレオンのお抱え画家、ジャックルイ=ルイ・ダヴィット

ジャック・ルイ・ダヴィッド『自画像』


肖像画の作者として有名なダヴィットはフランスの新古典主義の画家です。
新古典主義とは18世紀から19世紀初頭にかけて美術分野で支配的になった芸術思潮です。

ダヴィットは色彩よりも線による表現を重視し、鮮明な線と冷たい色彩、そして厳格で明確な構図によって古代の美徳を表現しました。
彼はナポレオンの公式な画家として多くの歴史画や肖像画を描きました。

前代未聞のトラブル発生、ナポレオンの肖像画制作

スペイン王カルロス4世からダヴィットにナポレオンの肖像画制作の依頼が届きました。
しかし、肖像画制作を行うに当たってある問題が発生しました。
その問題の原因は、ナポレオン。

ナポレオンは自らの肖像画なのに、モデルとなることを拒否したのです。
ナポレオンは自分がモデルになる代わりに衣装や帽子だけをデヴィッドに貸し与えました。
もちろん当時も肖像画は本人をモデルとして描かれることは当たり前。
モデルがいなければ肖像画は描けません。
仕方がないので、ダヴィッドは借りた衣装を弟子に着せ、ポーズをとらせました。

まさに「断りたくても、断れない仕事」
結果、ダヴィッドは全てを想像で描くことになりました。
この肖像画が、史実とはかけ離れたものとなったのは言うまでもありません。

現実と違うナポレオンの肖像画の嘘を暴く

ナポレオンが乗っている馬ですが、当時アルプスを馬で越えるのは不可能。
実際は、ロバを使ってアルプス越えを行なっていたのです。
しかしながら、肖像画にはロバではなく馬が描かれています。

そして勇ましさを象徴するマントですが、マントは戦場では非常に目立ちます。
そのため、遠征に出る時は地味な軍服を着ていたそうです。
もちろんマントは着用していませんでした。

実際のアルプス越えの様子はポール・ドラロッシュが描いた「アルプスを越えるボナパルト」の方が忠実に再現していると言われます。

肖像画は「嘘」でいい? ナポレオンの本音

ジャック・ルイ・ダヴィッド『書斎のナポレオン』


なぜこのダヴィッドが描いた真実とはかけ離れた肖像画をナポレオンは広めたのでしょうか。
それはナポレオンの英雄としての存在感を高める為の言わばプロパガンダ的な意味合いが強かったからと言われます。
実際にナポレオンはこの肖像画を見て大いに満足したといいます。
この絵を気に入ったナポレオンは、数多くの模写を描かせました。

ナポレオンは肖像画に対する自分の考えを述べています。

「肖像画は本人に似ている必要はない。
そこからその人物の天才性がにじみ出ていたらいいのだ。」

ヨーロッパに旅行するなら、ナポレオン鑑賞はいかが?

ヴェルサイユ宮殿美術館(フランス)


なぜこのダヴィッドが描いた真実とはかけ離れた肖像画をナポレオンは広めたのでしょうか。
この肖像画は量産され、世界有数の美術館などで保存されています。
その中でもダヴィッドが描いた原作とされているものはマルメゾン博物館(フランス)に所蔵されています。

大型のものはヴェルサイユ(フランス)、シャルロッテンブルグ(ドイツ)、ベルヴェーレ(オーストリア)など、ヨーロッパ各地の宮殿で保存されています。

ヨーロッパ旅行に行かれた際は、ナポレオンの肖像画を一目見てみてはどうでしょうか。

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