エミリー・ウングワレー オーストラリアの大地の鼓動を伝えるアポリジニ画家
エミリー・カーメ・ウングワレーはオーストラリアの先住民族、アポリジニの出身の画家。
彼女が描くオーストラリアの自然。大地に生きる動物たち、生えては枯れる植物たちを、自然に同化して生きるアポリジニの思想に基いて描いた作品の魅力や背景についてご紹介します。
エミリー・ウングワレー 70歳を越えてから絵を描きはじめた異色の画家
エミリー・カーメ・ウングワレーはオーストラリアの先住民族、アポリジニの出身。
生年ははっきりせず、1910年頃には生まれていたらしいとのこと。
アポリジニと後からやってきた白人の間に悲しむべき出来事がたくさんあったことは、いまやよく知られています。
その結果保護地でしか暮らせなくなったアポリジニに「せめて文化を」という名目のもと、1980年台後半からオーストラリア政府によるアポリジニ向けの美術工芸ワークショップが開かれるようになりました。
この時に才能を開花させたのが、当時すでに部族の長老となっていたエミリーでした。
最初はろうけつ染めをやっていましたが、70歳を過ぎた1988年頃からカンヴァスに絵を描くようになり、それからというもの、一日一枚という驚異的なペースで作品を制作し続けるようになります。
同族の身体や砂の上にまじないの文様を描く役目をしていたエミリーにとって、絵を描くことはごく自然なことでした。
彼女の絵はまたたく間に国際的評価を得るようになり、オークションで100万ドル以上の値段がつくほどになりました。
ですがエミリーは生まれ育った集落をほとんど出ることはなく、最後まで黙々と絵を描き続けながら、1996年、静かにこの世を去りました。
没後その名声はますます高まり、いまやオーストラリアを代表するアーティストとして全世界にファンがいます。
アボリジニの思想で描くドリーミング エミリー・ウングワレーの作品
エミリー・ウングワレーの作品は一見すると、「なんだ、抽象絵画か」と思う人が多いのではないでしょうか。
でも、違うのです。彼女の絵に、抽象的なものは一切描かれていません。
その生涯を見ればわかるように、エミリーは現代絵画の知識や主義主張とはまったく無縁な画家でした。
彼女が描いたのは、彼女が生きるオーストラリアの自然でした。大地と大地に生きる動物たち、生えては枯れる植物たち、そして移り変わる季節を絵にしたのです。
ただしエミリーはそれを、自然に同化して生きるアポリジニの思想に基いて描いたのでした。これをアポリジニでは、ドリーミングと呼びます。
ドリーミングは神話や儀式や風習や文様が複合した奥深い思想であると同時に、その思想の中核にいる、自然を司る無数の精霊のことでもあります。
祖先から受け継いできた精神のままに生きるエミリーにとっては、自然を写生することより、自然の本質を描きドリーミングを喜ばせることこそが重要なのでした。
たとえば、エミリーが一時期さかんに描いていた、ひたすら点描で画面を埋め尽くした作品群があります。肉眼で、あるいは大きな画像でも構いません、じっとしばらく見てみましょう。
生い茂る植物、植物を揺らす風、そして風を作り出す自然と自然が生む季節が描かれているのが感じられてきます。画面の中に尽きせぬ豊かさがあって、自然そのものと直面しているような気持ちが湧き上がってくるのです。
それは、他の画家では受け取ることのできない圧倒的な体験です。
エミリー・ウングワレーが描く生命のつながり「ビッグ・ヤム・ドリーミング」
エミリーは、あなたは何を描いているのか、という質問に対して、こう答えています。
「すべてのもの そう すべてのもの 私のドリーミング 細長いヤムイモ トゲトカゲ 草の種
子犬 エミュー エミューの食べる草 緑豆 ヤムイモの種 これが私の描くもの すべてのもの」
彼女がいう「すべてのもの」というのは、食べ食べられながら共存する生命の連鎖のことだとわかります。
全てはつながっていて共存していて、その中心にあるのが大地の精霊たち、ドリーミングということになります。
そういう考え方を絵として見事に表現したのが、彼女の代表作のひとつ、「ビッグ・ヤム・ドリーミング」。
彼女が持ち前の驚異的な色彩感覚を捨て、黒と白だけでヤムイモの地下茎を描いた大作です。
これも小さな画像で一見すると、抽象絵画にしか見えないかもしれません。
目の前でうねる線を追いかけながらぼうっと見ていると、大地のエネルギーといったものがどこまでもつながってゆく感覚を味わうことができます。
他の誰にも真似できないやり方で、自然の本質を描いたアーティスト、エミリー・ウングワレー。
彼女の絵は理屈ではなく、魂そのものが共鳴する/strong>稀有な絵画です。
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