粋な江戸っ子絵師・歌川国芳の「金魚づくし」で夏の涼を楽しもう!
江戸時代末期の浮世絵画家、歌川国芳は、洒落っけと茶目っけたっぷりの画家であり、また権力にも決して屈せず、庶民の意地を貫いた気骨の人でもありました。江戸の大衆から愛された江戸っ子画家の、ちょっと変わった夏らしい絵をご紹介します。
江戸時代末期の浮世絵画家、歌川国芳は、洒落っけと茶目っけたっぷりの画家であり、また権力にも決して屈せず、庶民の意地を貫いた気骨の人でもありました。江戸の大衆から愛された江戸っ子画家の、ちょっと変わった夏らしい絵をご紹介します。
お座敷遊びをする金魚たち!
三味線をひく金魚、葉っぱを持って踊る金魚、ぼうっと盃を傾ける金魚……これは、歌川国芳の「金魚づくし」というシリーズ絵の1枚。
「金魚づくし」は九枚からなり、どの絵も江戸時代の風俗を、擬人化した金魚に託して伝えてくれます。
戯画にこめられた驚くべき腕の冴え
人間とは身体の構造がまるで違う金魚を擬人化するというのは物凄く難しいことのはずですが、実にさらっと、なんの不自然さもなくやってのけています。金魚たちの尾びれが着物の裾のようになっていて、自然さを作り出しているのです。踊る金魚のぽっかりあいた口のアホっぽさ、むっつり酒を飲む金魚のぽてっとした腹のおじさんっぽさ。金魚の絵だからこそ生まれる面白さがつまっています。この絵を描いた画家は冗談好きのシャレがわかる人であると同時に、只者じゃない名手だと、見てすぐわかります。
武者絵の天才、歌川国芳
作者の歌川国芳は、1798年、江戸は日本橋に生まれました。風景画の名手、歌川広重とは同い年です。幼少時から画才を発揮し歌川派に入門、若い頃は比較的不遇でしたが、しだいに「水滸伝」などの武芸者が活躍する物語の挿絵、いわゆる「武者絵」の名手として人気絵師になってゆきます。つねに新しい技法や趣向を追求し、抽象的ともいえる表現にも平気で踏み込んでゆく彼のモダンで大胆な画風は、一世代前の大画家、葛飾北斎に近いものがあります。実際国芳は北斎の影響を受け、晩年の北斎と会っていたようです。
老中にも逆らってみせた庶民のヒーロー
国芳が45歳の時、有名な「天保の改革」が始まります。老中・水野忠邦の強権のもと、華美なもの、贅沢なものが禁じられるようになってゆきます。浮世絵もその取締りの対象になりますが、これに国芳はなにくわぬ顔で反発して見せました。
「源頼光公館土蜘作妖怪図」と題された絵がそれで、一見、平安時代の武将の妖怪退治を描いたお固い絵と見せながら、武将の顔を水野忠邦をはじめとする時の権力者の顔に似せ、妖怪を苦しむ江戸の庶民に見立てた皮肉な風刺画でした。幕府からは睨まれますが、江戸っ子たちは、権力に粋なやり方で抵抗してみせる国芳に、快哉の声を挙げたのです。庶民の代弁者として、国芳の人気はいやがうえにも高まりました。
理想の江戸っ子画家として生きて
同じように反骨精神を持ち、同じように新しいものを追求しつづけながら、歌川国芳には葛飾北斎のような奇矯なところや偏屈なところが、ほとんどありませんでした。小粋で気さくで豪快で、面倒見がよくて、でも芯は強く、大衆にも媚びない……そんな、まるで時代小説に出てくるような、理想の江戸っ子像を体現した人でした。当然弟子もたくさんいて、「最後の浮世絵師」といわれた月岡芳年や、最近再評価が著しい奇人画家、河鍋暁斎も、国芳の門下で学んでいます。
猫を愛した動物画家でもあった国芳
そんな愛された親分肌の男、歌川国芳にも変わったところはあり、それは尋常じゃない猫好きということでした。仕事中はずっと猫を懐に抱いていたといいます。当然、猫を擬人化した絵もたくさん描いており、そこから動物全般の擬人画を描くようになってゆきました。「金魚づくし」も、そんな国芳の生物愛の産物のひとつというわけです。
力の抜けた画風の中に、江戸浮世絵の面白さとレベルの高さが感じられる「金魚づくし」。夏の夕方、金魚を眺めるかわりにこの絵を見ながら一杯やるのも乙かもしれませんね。
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