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ルネッサンスの天才ラファエロの「小椅子の聖母」をめぐる伝説

ルネッサンスを代表する芸術家ラファエロの描いた聖母子像の一つ、「小椅子の聖母」。
数ある聖母子像の中でも特に代表作とされる作品の描かれたモデルは誰だったのか、作品にまつわる伝説をご紹介します。

天才ラファエロの傑作「小椅子の聖母」とは…

Raphael [Public domain], via Wikimedia Commons


ルネッサンスを代表する芸術家ラファエロ サンツィオ(1483〜1520)は、その生涯において数多くの聖母子像を描いたことでも知られています。それまでの神々しい威厳のある聖母とは異なり、優しいまなざしをラファエロの聖母は、人間的な親しみやすさを持っているのが特徴で、信心深い一般の人々に愛されてきました。

数ある聖母子像の中でも特に代表作とされるのが「小椅子の聖母」です。
フィレンツェのピッティ美術館に展示されているこの作品は、若々しく美しい母親と愛らしい子供たちを生き生きと描いた肖像画のような魅力で多くの人々を惹きつけてきました。

聖マリアと聖ヨハネ、イエスの魅力的な構図

ところが、この聖母子像はカトリック的な約束事もきちんと守られた、正真正銘の宗教画。
赤い洋服を着て膝に青いマントをかけた母親の頭のまわりには「円い金色の光」が細く描かれ、聖母であること表しています。また、右側に描かれた幼児も頭上に円い細い金光が輝き、聖ヨハネであることを示す十字架の杖を持っています。

この絵をよく見ると聖母は左足を上げた不自然な座り方をしていますが、全体として見ると丸い円の構図の中では自然に見え、安定した印象を与えます。服の色使いが鮮やかな中にも色彩の調和がとれ、ラファエロの卓越した技術が活かされています。

「小椅子の聖母」にまつわる伝説


きちんと計算されて描かれているにも関わらず、即興で描いたかのような印象を与えるこの作品。
ラファエロの死後、この作品にまつわる伝説まで生み出されるほど熱狂的な人気を誇ります。
昔、徳の高い修道僧が森の中で狼の難を逃れるため樫の木に登り、その後近くのワイン農家の娘に助け出されます。
お礼として修道僧は、樫の木と娘が後世に永遠の魂を得ることを預言します。

数年後ここを偶然通りかかったラファエロが2児の母親となった娘の姿があまりにも美しかったので、家族3人の姿をそばにあった丸い蓋に描きます。その蓋こそ、修道僧が登った樫の木で作られたワインの樽の蓋だったのです。こうして木も娘も絵画として永遠に生き続けることになったというのです。

聖母のモデルはラファエロの恋人フォルナリーナ

パンテオン神殿の内部 ラファエロの墓


「小椅子の聖母」を巡っては、ラファエロの恋人とを描いたという説もあります。
実際、人間味あふれる魅力に満ちた聖母には、「ラ フォルナリーナ」(ローマ、バルベリーニ美術館)の面影がうかがわれます。恋多き画家だったと言われるラファエロの生涯の恋人についてはパン屋の娘マルゲリータという説が有名ですが、半身ヌードのポーズは当時の遊女のポーズで、高級遊女ベアトリーチェだったという説も有力です。優しいまなざしを浮かべる聖母に官能的ともいうような美しさを感じさせるのは、そのためでしょうか?

信仰と人間性の融合を目指したルネッサンス時代の巨匠の名にふさわしいラファエロの描く聖母は、時代、宗派を超えて人々を魅了し続けています。
彼の描いた謎のモデルも、彼の名声とともに、伝説のように永遠に絵画の中で生き続けていくのです。

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